誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
その瞬間だった。

隼人さんの手が止まり、表情がふっと曇った。

「……いないんだ。」

静かな声だった。空気が一気に沈んだ気がした。

「……ごめんなさい。」

私は慌てて言った。

そんなつもりじゃなかったのに、と思いながら彼の横顔をうかがう。

「事故だった。高校生の頃。俺が15の時……兄貴は18で、大学に合格してた。未来が開けてたのに……」

言葉が消えていく。

私はそっと、隼人さんの腕に触れた。彼の体が、わずかに震えていた。

「写真、捨てられなくてな。親は処分しようって言ってたけど、俺が……」

「残してくれて、ありがとう。」

私はそっと言った。

きっとその写真は、隼人さんの心の一部を支えていたのだ。
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