誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「君が書いてくれるか?」

唇の端を上げて、甘い声で言うその態度に、思わずまばたきしてしまう。

「……私は存じ上げませんので。」

何とか冷静を装いながら、はっきりと返した。

すると彼は少しだけトーンを落とし、低く言った。

「取引先の名前を調べるくらい、ただの経理でもできるだろ?」

——その一言に、カチンときた。

「私は、ただの社員ではありません。」

言葉が自然に口をついて出た。

「春から、主任になります。」

一瞬、空気が変わった。

桐生部長の表情が、ふっと静かになる。

軽口でも、嘲りでもない。

驚きと、ほんの少しの興味が混ざったような、そんな目。

私は自分の胸の鼓動が早くなるのを感じながらも、視線を逸らさずにいた。

その沈黙の数秒間が、やけに長く感じられた。
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