誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
それからというもの、桐生部長の態度は明らかに変わった。

からかうような軽口は変わらないけれど、どこか私に対して一線を越えてこない“遠慮”のようなものがあった。

「ねえ、また頼むよ。」

懲りずにそう言ってきたのは、一条さん。

今日もまた、契約外の駐車場の領収書を持ってやってきた。

「困ります、一条さん。」

私は書類を受け取りながら、ため息交じりに答える。

そのときだった。背後から足音がして、声が飛んできた。

「一条、この前で終わりだと言っただろ。」

聞き慣れた、低く落ち着いた声。桐生部長だった。

「えっ?」と驚く一条さんの手から、部長が領収書を取って返す。

「篠原さんを、あまり困らせるなよ。」

さらりと、でも確かに言ったその言葉に、一条さんも思わず口を閉じた。
< 20 / 291 >

この作品をシェア

pagetop