誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「……そんなの、無理です。」

ぽつりと、私は呟く。

「俺じゃダメってこと?」

一条さんの瞳が揺れている。

この人も本気だ。

だけど……私は、隼人さんのことを――

「ダメじゃ、ない……けど……」

その瞬間、ドアがノックされた。

「篠原さん、いますか?」

凍りつく空気。

この声――桐生部長。

一条さんは、衣服を直してドアを開けた。

「篠原さんなら、さっき経理部に帰りましたけど。」

一条さんの声は、あくまで冷静だった。

「……まだ帰ってなかったが?」

桐生部長――隼人さんの声には、苛立ちがにじむ。

「じゃあ、途中なんじゃないですか?ここにはいませんよ。」

一瞬の沈黙。

次の瞬間、ドアを開け放ったまま、彼が踏み込んできた。

「何を――」

私は慌てて、棚の奥に滑り込んだ。
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