誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
私は、ゆっくりと歩き出した。

一歩、また一歩と、隼人さんの方へ。

「紗英……行くな!!」

一条さんの声が背中から響く。

振り返らなかった。

私は、ただまっすぐに――

桐生部長の胸に飛び込んだ。

「……帰りましょう。」

「……ああ。」

強く抱きしめられたその胸に、私は顔をうずめる。

心の中のざわめきが、ゆっくりと溶けていった。

私は早退扱いにしてもらい、ふらふらと会社を出た。

自分の体調が悪いのか、心が崩れているのかも、もう分からなかった。

ビルの前に、車が停まっていた。

運転席には、隼人さん――桐生部長の姿。

私を見つけると、すぐに降りてきて、無言でドアを開けてくれる。

何も言わずに乗り込み、ドアが閉まった瞬間、私は震えた声で言った。
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