誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「他に誰もいないだろ。」

彼がふっと顎をしゃくった先には、見事に誰もいないオフィスが広がっていた。

時計はもう20時を回っている。

経理部も営業部も、すっかり無人だ。

「特別だぞ。」

その一言に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

この人の言う“特別”なんて、誰にでも使ってる言葉なのに。

どうして、こんなにも響いてしまうのだろう。

「……女の子の仕事を、そうやって手伝って回ってるんですか。」

冗談混じりに言ってみせたけど、目は外せなかった。

「そう見えるか?」

ふっと笑って、彼は私の目をまっすぐに見た。

その目が、思いのほか優しくて、温かくて。

「……はい。」

正直に答えると、彼はおかしそうに笑った。

「ははは。正直だな、篠原さんって。」

軽く目を細めて笑う顔に、また心臓が跳ねる。

私の中で、桐生部長という存在が、少しずつ変わり始めていた。
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