誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「私、一条さんと付き合っています。」

その言葉を聞いた瞬間、桐生部長――隼人さんは目を見開いたまま、言葉を失っていた。

私の方をじっと見つめて、何かを探すように瞳を揺らしている。

「この前も……ホテルでセックスしましたし。」

一瞬、空気が凍った。

その刹那、彼は私の背後の壁に向かってバンッと拳を叩きつけた。

硬い音が響いて、私は思わず肩をすくめた。隼人さんの肩が、小刻みに震えている。

怒っている? それとも、傷ついている?

「……嘘だと言ってくれ。」

絞り出すような声だった。あの冷静で完璧だった桐生部長が、今はただの男として、私の前にいる。

「……嘘じゃありません。」

私は視線をそらした。見てしまえば、崩れそうだったから。

けれど、隼人さんの瞳に浮かんだ涙は、視界の端でもはっきりと見えた。

潤んだ目で私を見つめながら、静かに、だけど必死に告げる。


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