誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「ああ、連れて行くよ。イタリアンでも、フレンチでも。」

――ドキッとした。

何気ない会話のはずなのに、心臓だけが忙しく跳ねる。

「別に、連れて行ってほしいなんて……」

顔をそむけながら呟くと、彼はますます楽しそうに笑った。

その笑顔が、なんだか悔しいくらい綺麗で。

私は味噌汁に顔を突っ込むようにして、ごまかすしかなかった。

お会計の時、当然のように桐生部長が財布を取り出した。

「えっ、私の分は——」
言いかけたけれど、彼はレジでさっと支払いを済ませてしまった。

「領収書、もらわないんですか?」

ふと、経理目線で問いかけると、彼はレシートを受け取ることもなく、手をひらひらと振った。

「女性との食事で、領収書もらったことないけど。」
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