誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「俺がいるじゃないか。」

――カラン。

グラスに指が軽く当たって、小さく音が鳴る。

思わず目を見開いて、彼を見つめてしまった。

けれど部長は、何事もなかったようにワインをくるくると回していた。

その余裕に、心がまた一つ、大きく揺れた。

それからの時間は、他愛のない話ばかりだった。

仕事のこと、好きな映画、ちょっとした学生時代の話——

ワインに酔っていたのかもしれないし、桐生部長という存在に酔っていたのかもしれない。

気づけば、何を話したのかもあまり覚えていない。

「……ちょっとお手洗い、いいですか?」

「いいよ。」

穏やかな声に見送られ、私はふらつきそうな足取りで席を立った。

トイレの個室に入った瞬間、壁にもたれて大きく息をつく。

「……はぁー……」
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