誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
その女性が甘えた声で尋ねると、彼はふっと笑って、壁際に彼女を追い込むように立った。

「また、夜のお誘い?」

その声は先ほどと違って、からかうように優しくて。

「そういうの、嫌いですか?」

女性は上目遣いで聞いた。

「いや、いいよ。20時でもいい?」

「はい。」

嬉しそうに微笑む彼女に、彼は何でもないように頷いた。

さっきまで、泣いていた女性に向けていた冷たい言葉と態度。

今、目の前で見せている甘くて柔らかい笑顔。

まるで――別人。

その完璧なマスクの裏側には、いったいどれだけの顔があるのだろう。

私は息を詰めるように、彼の背中を見つめていた。

(ああ……やっぱり、苦手。)

だけど、そのくせ私は――なぜか、目をそらせなかった。
< 7 / 291 >

この作品をシェア

pagetop