誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
「でもその女の子、まだ会社にいるんでしょ?」

「え、うそっ?」

「バイトで入って、そのまま社員になったって。」

「モデル辞めたのかな?」

「どちらにしても、敵わないよね。」

私は、洗面台の端で静かに手を洗いながら、その会話を聞いていた。

耳に入れたくないのに、自然と言葉が胸に降り積もる。

“敵わない”——その言葉に、自分が比べられているようで苦しくなる。

トイレを出ようとした瞬間だった。

「私、今夜部長を誘ってみる。」

廊下に差しかかるそのとき、瑞樹ちゃんの声が背中を打った。

「えっ!?」

隣にいた礼ちゃんが驚きの声を上げる。

「泣かされてもいい!」

その言葉には、決意と期待、そしてほんの少しの怖さが混じっていた。

私は一瞬、足を止めてしまった。
< 70 / 291 >

この作品をシェア

pagetop