誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
“泣かされてもいい”——そんな覚悟、私は持っていない。

でも、彼に触れられるのは怖くて、望んでいて、矛盾していて……。

扉を押し、私は飲み会の席へ戻った。

その胸の奥には、彼女たちには負けたくない、そんな想いが熱く灯っていた。

でも、飲み会の席に戻ると、桐生部長の姿はなかった。

「えれ?」思わず小さく声が漏れる。

すると上林さんが言った。「あれ? 部長と会わなかったの? さっき、篠原さんを追いかけるようにトイレの方に向かったのに。」

――え?

胸がざわつく。

私のことを、追いかけてくれた? その言葉に心が浮かびかけたけれど、同時に不安が膨らんだ。

私は立ち上がると、もう一度トイレのある廊下へ向かった。

そして――そこで、見てしまった。

廊下の隅で、桐生部長が誰かと立っている。
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