誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
そのまま、背中を壁につけると、瑞樹の髪にそっと指を絡める。

ベルトが外される音が、静寂の中に重く響く。

その音だけで、ふたりの距離がもう“戻れない”場所に踏み込んでしまったことを悟った。

「はぁ……瑞樹……そこは……」

吐息に混じる声は、抑えきれない熱を帯びている。

瑞樹の手が彼の下腹に滑り込むと、桐生部長は軽く顔を背け、低く息を漏らした。

「だめですよ、ちゃんとこっちを見て……」

彼女が上目遣いで囁く。

その視線に射抜かれて、桐生部長はついに、瑞樹の腰を引き寄せた。

熱が、重なる。

唇と唇が触れる寸前、ふたりの息遣いが混じり合った。

あとは、音も言葉も意味をなさなくなる。

そして、個室の中には、小さく、くぐもった吐息が満ちていく——。
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