誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
胸の奥がざわめく。

私はすぐに踵を返してトイレを出た。戻ってくると、上林さんがこちらを見た。

「どうだった?部長と会えた?」

私は微笑んで見せる。

「ええ、どうやら……女の子と楽しんでいるみたいです。」

笑っているのに、笑ってなんていない。喉の奥が締めつけられて、うまく呼吸ができない。


「あら、さすが桐生部長。」

上林さんがからかうように笑う。

「予想通りですか。」

私が苦笑気味に返すと、上林さんはグラスを持ち上げながら言った。

「そうね。あのぐったりした感じ、どう見ても――って思ったら、あ、帰って来た。」

視線の先には、少し乱れたネクタイを直しながら席に戻ってくる桐生部長の姿。

その姿に、空気が一瞬ぴりっと引き締まった。
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