誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
声に出すと、余計に泣きたくなった。

桐生部長は最初から、危険な香りがしていた。

女を泣かせると噂されていたし、事実、会社には彼の影で涙を流した女性が何人もいた。

なのに、そんな男に――本気になってしまった。

「他の女性は、どうやって忘れたのかな……」

気持ちを断ち切れず、未練だけが残っている。

あんなに甘い言葉を囁かれて、あんなにも近くで笑ってくれて……全部、幻だったのかもしれない。

でも――

「……惹かれたのは、私。」

誰に責められたって仕方ない。

悪い男だってわかってて、危ないと知っていて、心を寄せたのは私の方だった。

「バカだな、私。」

恋は、いつも思い通りにいかない。

どれだけ誠実であっても、どれだけ真面目に生きていても、心は理屈じゃ止まらない。
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