誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –
美羽さんも、ほんの一瞬だけ表情を固くした。

でもすぐに、いつもの穏やかな微笑みに戻る。

「よろしくお願いします、部長。」

それだけ言って、彼女は手元の書類に目を落とした。まるで、もう何もなかったかのように。

でも、私は気づいていた。

二人の間に流れる、どこか「知っている人間同士の」空気。

私が知る桐生部長と、彼女の知る桐生部長は、きっと違う。

——私の知らない時間を、二人は共有していた。



昼休み、私は思い切って美羽さんに声をかけた。

「美羽さん、ちょっといいですか?」

「はい?」

「桐生部長と、知り合いなんですか?」

一拍おいて、美羽さんはふわりと笑った。

「ええ、元彼です。」

……あっさりと、まるでコンビニで買ったお弁当の話でもするかのように。
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