すべての花へそして君へ③
最終章
春。別れの季節。
校門をくぐると、シンボルである満開の桜が、ふわり枝を揺らし、花びらを散らす。喜び溢れる賑やかな声や、寂しさに少しだけ涙ぐむ声、そんなたくさんの生徒たちを薄紅色の花が包み込んでいた。
――桜ヶ丘高校。
企業トップクラスで、後の跡取り。医者や政治家、有名弁護士の御子息・御令嬢。または、ある道で名を馳せている有名人。芸能人、トップアイドル、トップモデル。そして、極少数の一般生徒。
ここは、様々な生徒たちが一緒に、楽しく明るく元気に過ごせる私立の高等学校。
そんな桜ヶ丘には、ちょっと変わったシステムがある。
たとえば、大手企業への内定。有名大学への進学。起業のための全面的なフォロー、バックアップ。芸能界へのスカウト、推薦等。トップクラスのSクラスの生徒にのみ限定されるが、卒業する生徒たちには夢のようなサポート保証されている。
その学校に通う本作のヒロイン。名前を、道明寺……ではなく、朝日向葵。
実はこの子、この辺りではちょっと有名な……いいえ。今や世界中で有名な、朝日向財閥の一人娘だったりするのです。
「何見てんの?」
「ん? 桜とか、生徒とか、校舎とか。ここの雰囲気とか」
「感傷に浸っていたと」
「というよりは、未だに信じられないなあと」
「何が」
「こんな気持ちで、ここに立っていられること」
容姿端麗、成績優秀、文武両道、その他諸々。高難度の編入試験を難なく満点でパスし、二年前この桜ヶ丘へとやって来た彼女でしたが、途中編入。それから、財閥の娘。それが原因となってか、生徒たちには遠巻きに見られることが多く、入ってきた当初は本当の友達と呼べる人が、彼女には一人もいませんでした。
しかし、それには彼女なりの理由があり、そしてそんな彼女の編入には、道明寺のとある目論見が存在していたのです。
「信じられないならいつでもほっぺた千切ってあげるけど」
「ちぎっ!? せ、せめて引っ張るだけにしてください」
けれど、それを彼女は……いいえ。彼女たちは、みんなで一緒に乗り越え。そして今日、ここ――桜ヶ丘を卒業するようです。