すべての花へそして君へ③
「……って、あれ? ミズカさんだ」
「おい、あおい。手刀は危ないからやめなさいって言ってるだろ」
「はーい。でも、なんでサンタさん? ああ、そういえば今日空手教室の子たちにプレゼント渡しに行くって……」
……あれ。それにしてはまだ時間も早すぎるんじゃ。
「あ! もしかしてわたしとアイくんに? わープレゼント! なんだろう!」
「…………」
「え。本当に? もうそんな歳じゃないよ? 改めて言うけど、サンタさんに夢持ってないよ?」
「いい子は黙って早く寝なさい」
「喉渇いたから水飲みに下りてきたー」
「じゃあさっさと水飲んで寝なさい」
「はーいっ。ミズカさん、ごめんね? ありがとうっ」
「……そこはせめてサンタと言え」
呆れたミズカさんを横目に、さっさと目的を果たしたわたしは、部屋に入っていい子で待っていた。と、言っても。もう完全に目が冴えてしまったので、潔くベッドに座って待っていたのだけど。
そーっと扉を開けたサンタさんは、それはそれは残念がっておりました。
「……はあ。あおい、お前熱は」
「今多分ものすごく高いよ!」
「あーだからテンションもそんなに高いのね」と、ベチンと一つ、おでこにひんやりシートを貼られた。
「取り敢えず桃缶切ってくるから、ちょっと待ってろ」
「えープレゼントはー」
「あいが起きるから静かに」
「はーい……」
はっきり言うと、食欲は全くなかった。でも、ミズカさんに心配はかけたくないし、薬を飲むにしても、何かは食べておいた方がいいだろう。
美味しいはずの桃缶の味は、よくわからなかった。
「薬飲んだら大人しく寝ろよ。焦る気持ちもわかるけど、仕事は風邪が完全に治ってから、だからな」
「ねえミズカさん、もう寝る……?」
「ん? どうした。何か欲しいものあるか」
「欲しいもの……とかじゃないんだけど」
ミズカさんが持ってきてくれたスポーツドリンクを一本飲み干したわたしは、ベッドに横になりながら小さく呟いた。
「わたしが眠るまで、何かお話して欲しいな」
「それこそお前、そんな歳か」
「難しかったら大丈夫だよ。夜遅いし」
「……じゃあ、何の話が聞きた――」
「ヒナタくんの話」
「おま、……」
「……だめ?」
「……あいつには言ってないよな」
「うん。ミズカさんとの約束だから」
「ならいい」
大きな手が、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。
「そうだな。あれは――……」
そうあれは、わたしが再び花咲で暮らすようになって、まだ間もない頃の話だ。
――――――…………
――――……