男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 どうする。
 思わず、あの宿の名を出してしまったけれど、勿論行ってもトーカはいないわけで。
 ザフィーリはきっと女将さんに「トーカという女性は泊まっていないか」と訊ねるだろう。
 現代日本とは違い、この世界で個人情報なんてガバガバだ。
 何も知らない女将さんはきっとこう答えるはずだ。

「トーカなら以前ここで働いていたけど田舎に帰るって辞めたよ」

(ダメだーっ!)

 私の話と矛盾しまくってしまう。
 戻ってきたザフィーリに「どういうことかな」と問われる未来しか見えない。

(……こうなったら、ザフィーリよりも先回りして女将さんに会うしかない!)

 変な奴に言い寄られて困ってるとか話せば、女将さんならわかってくれるはずだ。

 丁度そのとき、昼休憩を知らせる鐘が辺りに鳴り響いた。

(もうそんな時間か)

 ザフィーリが都に行くとしたらおそらく夜だろう。ならば。

(善は急げだ!)

 私はこのランチタイムに都に行くことに決めた。

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