男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
私はザフィーリのことを簡単に伝えた。
今日はおそらくもう来ないとは思うけれど、絶対とも限らない。
「トーカのことを訊かれたら、もう帰ったと言えばいいんだね。そんで、この花束は受け取れないからここに置いていったと」
「はい。すみませんがよろしくお願いします」
ザフィーリには悪いが、花束はこの宿に飾ってもらうことにした。
と、花束を手にした女将さんはニヤニヤとした顔で言った。
「モテる女は辛いねぇ」
「や、そういうわけじゃ……」
苦笑していると、女将さんはその間ずっと黙っていたラディスの方を見上げた。
「あんたも、惚れた女は大事にしなよ」
「ああ」
視線を逸らしながらぶっきらぼうに答えたラディスに、女将さんはふふと笑ってから私に耳打ちをした。
「この子が私のとこに女を連れて来るなんて、あんただけなんだから。愛想のない子だけどさ、これからもよろしく頼むよ」
「は、はい」
私はまた顔が赤くなるのを感じながら頷いた。
そうして、私たちは見送りに出てくれた女将さんに手を振りながらその宿を後にした。
「騎士団長様がこんなふうに普通に通りを歩いてて騒ぎにならないのか?」
「は?」
イェラーキを待たせているという街外れまで相変わらず賑やかな大通りを早歩きで進みながら私は訊いた。
「ラディス団長とキアノス副長が並んで歩くと都中の女たちが叫び声を上げるって聞いたことあるんだけど」