男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
するとラディスは呆れたように言った。
「それは凱旋の時の話だろう。こういう格好で普通に歩いていれば誰も俺だとは気づかん」
「そういうもんか?」
「お前だって最初俺がいることに気づかなかっただろう」
「……確かに」
そして私は続けて訊いた。
「女将さんて、お前のなんなんだ?」
やたら親しげだったし、女将さんの「この子」という言い方も気になった。まるで子供扱いだ。
私は知り合いとしか聞いていない。
「彼女はあそこの女将だが、情報屋でもある」
「えっ」
「あそこは夜は酒場になるだろう」
「ああ。酔っ払いの相手がほんと面倒くさくてさぁ」
思い出して顔をしかめていると、ラディスはふっと笑った。
「そういう口の軽くなった客から様々な情報が手に入る。だから、俺はたまにここに情報収集に来ているんだ」
「そうだったのか……って、じゃあやっぱり私が働いていたときもちょくちょく来てたのか?」
「ああ。様子を見に来ていた。お前は全く気づいていなかったみたいだがな」
「う……」
その通りなので何も言えなかった。
……てっきり、紹介したっきり放っておかれたと思っていたけれど。
(そっか、様子見に来てくれてたんだ)
「だから、お前が辞めたと聞かされたときには驚いた」
「あー」
「まさか、その後騎士団に志願してくるとはな」
「ハハハ」
軽く睨まれ誤魔化し笑いをしていると、ラディスは続けた。
「それと、彼女は昔から世話になっている恩人でもある」
「へぇ。昔からって?」
「俺が14かそこらの頃からだ」
「へぇ!」
その頃を思い出したのか穏やかな横顔を見上げ、ちょっとほっこりした。
(今度女将さんと会ったら、その頃の話聞いてみよ)