男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 先程の拒絶の言葉は彼の本心から出たものかもしれないが、違う。これは、今の彼はイリアスじゃない。
 きっとこれも呪いの力なのだろう。
 魔女の呪いはキアノス副長のように体力を奪うだけではないのだ。
 なんて厄介なんだろう。舌打ちをしたい気分だった。
 でも、なんとかして彼を助けなくては。

(それが出来るのは聖女の私だけだ……!)

「イリアス、彼女から受け取ったものを渡してくれ」

 彼をまっすぐに見つめ手を差し出しながらゆっくりと近寄っていく。
 すると、イリアスはシャツの胸ポケットを手で押さえた。

「渡さない。絶対に。これは、俺が聖女様から戴いたものだ」

 その仕草を見て、あのポケットに『それ』はあるのだとわかった。
 徐々に彼に近づいて行きながら、一応の説得を試みる。

「イリアス、彼女は聖女なんかじゃない。彼女は魔女だ」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「嘘だ。俺は信じない。お前の言うことなんて、俺は信じない!」

 ズキリと、その言葉に胸が痛む。
 正気ではないかもしれないが、それは彼の本音な気がした。
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