男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「イリアス、頼む。オレはお前を助けたいんだ」
「そんなことを言って、これを奪うつもりだろう。絶対に渡すかよ」
やはり、説得は通じないようだった。
……どうする。
飛びかかって力づくで奪うか?
でもイリアスに力で敵うとは思えない。男の、トーラの姿だとしても力の差は歴然としている。
やはり先ほどのキアノス副長のように聖女の力を使うしかないのだろう。
しかし、そのためには元の姿に戻らなくてはならない。
(イリアスの前で、藤花に……)
ぎゅっと手に汗を握る。
彼に、本当は女だということがバレてしまう。
ずっと彼を騙していたことがバレてしまう。
……でも。
そのとき、私の机に先ほど食べ損ねた夕飯のトレーが置かれていることに気付いた。
私が腹を空かせているだろうと、彼がこの部屋まで運んでくれたのだろう。
(……っ、大切な友達の命がかかってんだ。躊躇ってる時間はない)
嫌われたっていい。
辛いけれど、これまで彼を欺いてきた報いだと受け入れよう。
私は覚悟を決め、彼に微笑みかける。
「イリアス、今助けてやるからな」