男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「あいつには、他の仲間の様子を見に行くように言った」
「そうか……」
ほっとした、そのときだ。
「うっ……」
床からイリアスの呻き声が聞こえて私は慌てる。
キアノス副長も呪いを解いた後はすぐに気がついたようだった。
私はラディスの身体を引き剥がそうと力を入れるが彼の腕は全く緩まない。
「ラディス!」
「……」
「イリアスに見られるから!」
「見せてやればいい」
「はぁ!?」
私は焦りまくり、とにかくトーラの姿に戻ることにした。
(だって、もしかしたらイリアスの奴覚えてないかもだし!)
先ほど藤花の姿に戻ったときの彼の反応は、正気のものではなかった。
腕の中で私の身体が一回り大きくなったことに気づいたのだろう。
ラディスは小さく舌打ちをして漸く私の身体を離してくれた。
「……あれ? なんで、俺……?」
むくりと床から起き上がったイリアスが周囲を見回し、その視線がまずラディスを見つけた。
「らっ、ラディス団長!?」
びしっとその場で勢いよく立ち上がったイリアスを見て、改めてほっと安堵する。
(いつものイリアスだ……)