男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
……どうやら心配をかけてしまったらしい。
そういえば、合流するまで何もするなと言われていたことを思い出し一応謝る。
「ご、ごめん。イリアスの奴、呪いにやられて正気じゃなくなってたからさ、早くなんとかしなきゃと思って」
「……っ、お前は、大丈夫なのか?」
身体を離したラディスの視線が、私の首元でぴたと止まる。
ヤバっと私は顔が引きつるのを感じた。
あれだけ強く絞められたのだ。イリアスの手の跡がまだ残っているのかもしれない。
震える大きな手が私の首に触れる。
「まさか、」
「あ、あ~、……ほんのちょっとだけ首絞められちゃって」
アハハと空笑いしながら言うと、ラディスの顔が驚きや怒り、心配や安堵などもう色んな感情が複雑に絡み合ったような可笑しなことになった。
「〜〜っ、こっの、馬鹿者がっ!!」
もう一度強く怒鳴られ、再び思い切り抱きしめられる。
「馬鹿ってことはないだろ。ちゃんとうまくいったし」
「そういう問題ではない!」
と、そこで私はハっとする。
「そ、そういえば、ザフィーリは?」
彼に今の藤花の姿を見られるのは、イリアスよりマズイ。
私は……トーカは、もう田舎に帰ったことになっている。
(それに、こんなラディスから抱きしめられているところなんて見られたら……)
恐る恐る視線を向けるが蝶番が外れ半壊したドアの向こうには誰もいなかった。