男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
男装聖女と魔女 9
「それで、彼女は?」
先を行くイリアスについて行きながら私は小さな声で傍らのラディスに訊ねる。
すると彼は悔しそうに答えた。
「案の定だ。部屋はもぬけの殻だった」
「そうか……」
奥歯を噛む。
会えたなら、あの綺麗な顔に一発くらいビンタを喰らわせてやりたかった。
魔女への憧れの気持ちが彼女のせいで一気に崩れた。そんな個人的な怒りも含めて。
しかし、彼女の計画は私のせいで台無しになるのだ。
本物の聖女がここにいることに気付けなかったのが彼女の誤算。
それを思うと少し胸がスっとした。
(なんとしても、全員助けてやる!)
「ザフィーリ!」
寄宿舎の廊下の一画に集まっている見習いたちの中に目立つ銀髪を見つけ、私は声を上げた。
「トーラ」
その場にいた皆がラディスを見て姿勢を正す中、私は彼に駆け寄った。
「ザフィーリ、さっきはごめん」
「いや、無事なら良かった。……君も」
その視線が私のすぐ後ろにいるイリアスに移った。すると。
「悪かった」
「!」
イリアスがザフィーリにそう頭を下げるのを見て、私も、ザフィーリ本人も驚いたようだった。