男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
男装聖女と騎士団長の夜 1
街に到着したのは翌日の夕暮れ時だった。
数日前に立ち寄ったあの街だ。
(どうしよう……着いてしまった)
イェラーキの手綱を引いて歩くラディスの後ろで、私は内心めちゃくちゃ焦っていた。
向かう先は数日前に泊まったあの宿。
――宿に着いたら覚えていろ。
(あいつが、あんなこと言うから……!)
あれからラディスの顔がまともに見れなくなっていた。
イェラーキの背にいるときはお互い前を向いているからまだ良い。
問題は休憩中や野営の最中だ。
「団長と喧嘩でもしたのか?」
イリアスにそう小声で訊かれたくらいだから、余程私の態度はわかり易くおかしかったのだろう。
ラディスだってそんな私に絶対気づいているはずなのに、ここまで本当に必要最低限の会話しかなかった。
安心しろ、冗談だ。とか、そういう言葉を待っていたのに……。
まるで、絶対に撤回しないぞと言われているみたいで頗る落ち着かなかった。
ラディスにはまだ訊きたいことが色々とあったのに、それどころではなくなってしまった。