男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
と、そのとき俄かに食堂の一画が騒がしくなった。
イリアスがそちらの方に身体を向け首を傾げた。
「なんだぁ?」
「聖女様にお会いしたってマジかよ!?」
そんな声が聞こえてきて私たちは顔を見合わせ立ち上がった。
他の仲間たちと一緒にそちらに駆け寄ると、騒ぎの中心にいたそいつはぼーっと虚空を見つめていた。
何度か鍛錬中に手合わせをしたことのある奴だ。名前は覚えていないが。
「なぁ、勿体ぶるなよ! どんな方だったんだ!?」
「……聖女様だった」
皆一斉にガクっと肩を落とした。
「そんなことわかってんだよ! どんな方だったのかって訊いてんだ!」
「……俺、あんな綺麗な人見たことねぇ……」
そうしてそいつはまたうっとりと天井の方を見つめた。
もう完全に骨抜き状態である。
(そんなに綺麗な子なのかよ……)
どうしても同じ聖女である自分と比べてしまって意味もなくショックを受ける。
「それに聖女様、こんな俺にまでにっこり微笑んでくださったんだ……」
おお〜とか、へぇ〜とか、羨ましそうな声がいたるところから上がった。
そしてそいつは続けて呟くように言った。
「俺、騎士になって絶対あの人をお護りする」