男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 そして叫び声を上げた当の聖女様はというと。

「大変、ドレスが汚れてしまったわ!」

 それを聞いてガクっと力が抜けた。
 ドレスの裾に泥が少し跳ねてしまっただけのようだ。

「だから言ったでしょう」

 そう溜息交じりに言ったのはラディスだ。

「ここはそんな格好で来る場所ではないんです。それと、馬の前で大きな声を出してはだめだと言ったはずですよ」
「ごめんなさい。でも、どうしても馬たちを見てみたかったんですもの」

 聖女様はしゅんとした顔でラディスを上目遣いで見つめた。
 ラディスがもう一度はぁと溜息を吐いた。

「さあ、もういいでしょう。城に戻りましょう」
「わかったわ、ラディス」

 そうして、ふたりはまた並んで城の方へと戻っていった。

(なんだったんだ……)

 呆然とそんなふたりを見送っていると。

「聖女様……」
「綺麗だったなぁ……」
「俺たち、ラッキーだったな」

 そんな呆けた声があちこちから聞こえてきた。

(まぁ、確かに。後でイリアスに話してやるかな)

 とりあえず掃除の続きをしようと厩舎の中に戻りながらふと思った。

(そういや聖女様、金髪だったな。日本人ではないってことか?)

 ……それより、今夜またラディスに会うのか。

 思わず溜息が漏れていた。
 おそらく奴も聖女様の件を話したいのだろう。私だって色々気になるし話したい。

 でも、なんだかすこぶる気が重かった。


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