男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
思わず、大きな声が出てしまっていた。
お陰でまた喉に痛みを覚えて、一度咳をしてから私は笑顔を作った。
「そりゃちょっとは待ったけど、勘違いだったかなと思ってすぐに部屋に戻ったから」
「……なら、いいが」
「だから、早く聖女様のとこに戻ってやれって」
「は?」
呆けたような声が返ってきて、私は握りしめた自分の手を見下ろしながら続ける。
「聖女様をお護りするのが騎士団長の役目だろ。こんなとこにいないで早く行ってやれって。風邪うつしちまうかもしれないし」
「……何を言っている?」
その声が不機嫌なものに変わって、こちらも少し強い口調で繰り返した。
「だから、聖女様のとこに早く戻れって!」
とにかく早くこの部屋から出て行って欲しかった。
でないと、熱のせいで余計なことまで口走ってしまいそうだった。
――なのに。
「!?」
急に立ち上がったラディスが私の両肩を強く掴んだ。
「さっきから何を言っている。聖女はお前だろう、藤花」