男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「ほら、飲め」
目の前に水の入ったコップが差し出されて、私は咳をしながらそれを受け取り喉を潤すようにゆっくりと飲んでいった。冷たい水が胃に落ちていく感覚が心地いい。
激しい雨音に気付いて窓を見れば朝より更に酷くなっているようで、そのせいで部屋がこんなに暗いのだとわかった。
「ありがとう、ございます」
水を飲み干して、目は見れずにお礼を言う。
……正直、しばらく会いたくなかった。
「お前が寝込んだと聞いてな」
そうラディスは言った。
イリアスは先輩騎士に伝えると言っていたが、やはり団長の耳にも入るのだろうか。
「ご心配をお掛けしてすみません」
頭を下げる。
「寝てれば治るので、大丈夫です」
(だから早く出ていってくれないかな)
そう心の中で付け足す。
こいつに情けない姿を見られたくなかった。
それに、やっぱりうまく顔が見れなかった。
どうしても、昨夜見たあの光景が頭に浮かんでしまう。
「昨夜はすまなかった」
「!」
謝罪されて、やはり昨日のあれは私の勘違いではなくちゃんと“合図”だったのだとわかり、私はシーツをぎゅっと握りしめた。
「急用が出来て行くことができなかった。……もしかして、雨の中俺を待っていてくれたのか?」
「んなわけないだろ!」