男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

「すまなかった」

 もう一度謝罪されて、私は首を振る。

「ありがとう、ラディス。あのとき、私を護ってくれて」

 大分遅れてしまったけれど、今できる精一杯の笑顔で感謝を伝える。
 と、ラディスは渋面を作り眉間を押さえた。

「? どうした?」
「……いや、己の理性と戦っているだけだ」
「は?」

 そのときだった。
 ラディスがドアの方を振り向き立ち上がった。

「誰か来る」
「イリアスか!?」

 私は慌てる。
 まだ女の姿のままだ。

「戻れるか?」
「た、多分、」

 そうして目を瞑り集中したとき、ガチャっとドアが開いた。

「トーラ、飯持ってきたぞー。具合はどうでええっ!? ラディス団長!?」

 イリアスはラディスの姿を見てバカデカい声を上げた。

「な、なんでここに」
「こいつが体調を崩したと聞いて少し様子を見に来ただけだ」

 冷静に答えたラディスはこちらを振り返り、無事トーラの姿に戻った私を確認してからドアの方へと歩いて行った。

「あとは任せる。無理はさせるな」
「は、はい!」

 びしっと背筋を伸ばしてイリアスが答えると、ラディスはそのまま部屋を出て行ってしまった。

「び……っくりした~~」

 持っていたトレーを棚の上に置きながらイリアスは息を吐いた。

「オレも、びっくりした」

 苦笑しながら言うと、イリアスはこちらを見ながら眉をひそめた。

「お前、やっぱラディス団長に気に入られてんじゃねーの?」

 ギクリとして、私は「んなわけねーだろ」と慌てて誤魔化したのだった。
 ……熱のせいで顔が赤いのがバレずに済んで良かったと思った。

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