男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
「ゆっくり入ってこい」
頷いてゆっくりと近づいていくと、その真っ黒な瞳が私を捕らえた。耳もしっかりとこちらを向いていてドキドキする。
でも暴れ出したり威嚇したりする様子はない。
そのままラディスの隣に並ぶ。
イェラーキが目を細め私のことをじっと見つめていて、小さく声をかけてみた。
「イェラーキ、久しぶり……と言っても、姿も違うしわからないか」
あのとき私は女の姿だった。格好も今とは随分違うし、声だって違う。
「手を出してみろ」
「え?」
言われた通り自分の手を出してみるとイェラーキはその手に鼻を近づけてきた。
そしてそのままベロンっと大きな舌で舐められてびっくりする。
「な、舐めっ」
興奮しながら隣を見るとラディスは笑いを堪えるように口元を押さえながら言った。
「こいつは頭もいいが鼻もいいからな。お前のことをちゃんと覚えているんだろう」
「!」
それを聞いて嬉しくなった私はもう一度イェラーキの方を見た。