欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
会議室を出て、私は笑顔のままトイレに向かった。

誰にも見られないように、早足で。

でも、鏡を見た瞬間、張りついた笑顔が音を立てて崩れて――涙が、ぽろりと落ちた。

「……あれ?」

思わずこぼれた声と同時に、足音が聞こえた。

振り返ると、そこには相沢陸が立っていた。

気まずさに言葉を探すより先に、彼は無言でポケットからハンカチを差し出してきた。

「……ありがとう。」

それだけが精いっぱいだった。

彼は、私が言うことにはいつも素直に従ってくれる、忠実な部下。

どこか人懐っこくて、でも礼儀正しくて、まるで忠犬のような存在。

「……部長。」

彼が、少しだけ声を落として言った。

「今日は、飲みに行きませんか?」

「えっ……」

思わず顔を上げる。

断ろうとした。こんな時に飲みに行くなんて――そう思った。

でも、彼の瞳は、真剣だった。

ただの部下の誘いとは思えないほどに、あたたかく、まっすぐで。
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