欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

獣の顔、知っていますか?

「ここ、個室じゃないと落ち着かないでしょ」

連れて来られたのは、ちょっと洒落たダイニングバーだった。

個室のソファ席に案内され、私はそっとため息をついた。

正直、まだ気持ちの整理はついていない。

けれど、陸の前では自然と力が抜けていた。

彼は変に気を遣わず、いつも通りでいてくれる。

「部長、お酒強いですよね。何飲みます?」

「今日は……軽くでいいわ。」

軽く。あくまで“残念会”。それ以上でもそれ以下でもない。

そんなつもりで、グラスを交わした。

けれど、どこかいつもと違った。

彼の視線はまっすぐで、何度も私の瞳を射抜いてくる。

冗談を飛ばして笑い合いながらも、ふとした間に熱が潜んでいた。

「……私、今日さ、振られたの。」

ぽつりとこぼした言葉に、グラスの中の氷が揺れた。

陸は返事をしないまま、少しだけ身を乗り出した。
< 22 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop