欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
「佐伯チーフ、ちょっとワイン飲みません?」

唐突にそう言って、片瀬くんはワインメニューのページを私に向けた。

彼の目は、普段よりも少しだけ近くて、いたずらを仕掛ける子どもみたいに楽しげだった。

「いいよ。」

あくまで軽く応じるつもりだったのに、心がなぜか弾んでしまう。

「はーい、このグラスワイン2つお願いします。」

店員に向かってそう言いながら、彼はふと私を見た。

その目が、挑むように、じっと私を射抜く。

「俺、強いですよ。ワイン。」

――強い。

その一言に、なぜかドキッとしてしまう。

まるで、それだけじゃない何かを意味しているように思えて。

運ばれてきたワインは、深いルビー色をしていた。

グラスを傾け、少しずつ口に含む。

香りが立ち、舌の奥にまろやかな酸味が広がる。

「……美味しい」

素直にそう言うと、片瀬くんが嬉しそうに頷いた。

「でしょ?」
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