欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
次の瞬間、私はグラスを置いて、少しだけ彼の肩にもたれかかった。

「……なんだか、酔っちゃったかも」

本当は、全然酔ってなんかいない。

でも、彼がどうするか――試したくなった。

「どうしたんですか?」

グラスを置いた片瀬くんが、少しだけ真顔になって私を見る。

「……今日、帰りたくない」

ぽつりと漏らした言葉は、本音なんて曖昧なものじゃなかった。

寂しさと、甘えと、ほんの少しの期待。全部が詰まっていた。

沈黙が流れる。

ふと横を見ると、片瀬くんの目が揺れていた。

真っ直ぐな瞳。だけど、どこか迷っている。

「あ、あの……」

やだ、困ってる?

変なこと言ったかな。急に重かった?

「……いえ」

そう言ったあと、彼が顔を寄せてきた。

耳元に、低く落ちる声。

「……それ、本気で言ってる?」

その瞬間、背中がぞくりと震えた。

ああ、もう――彼に甘えたい。

「このあと……行こうか」

「えっ……」

「ホテルに」

私の手を、彼の指がそっと包み込む。

自然と、指先が重なって、離れられなくなっていた。
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