欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

酔ったふりは、もう通じない

ホテルのベッドの端に、私たちは並んで座っていた。

室内の静けさが、心臓の音ばかりを大きく響かせる。

実は、全然酔ってなんかいない。

あれだけ甘えておいて、いまさら言えないけれど……むしろ、彼と並んでいるこの状況に、酔いはすっかり醒めてしまっていた。

「……佐伯チーフ?」

「ん?」

声をかけられても、なんでもないふりをした。

酔ったふりをしないと、彼は抱いてくれない。

だって私は“チーフ”で、“年上”で、“同僚”なんだから。

「本当は……酔ってないでしょ。」

一瞬、時間が止まったような気がした。

バレた。

もう終わりだ。

どうしよう。

「……分かっちゃった?」

精一杯笑ってごまかしながら、私はそっと立ち上がった。

「……無理だよね。こんなの」

そんなはずじゃなかったのに。

急に自分が情けなくなって、逃げ出したくなった――その時だった。
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