欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

朝、境界線のない関係

朝、オフィスに入ると、彼の声がすぐに届いた。

「佐伯チーフ」

昨夜のことがまるで夢だったように、彼はいつも通りの声で私を呼んだ。

「……ああ。私、これから外回りだから」

「お伴します」

即答された上に、私が止めようとした時には、彼はさっさと自分のカバンと私の資料を持って、颯爽とオフィスを出ていく。

「ちょ、片瀬君……!」

追いかけるように私も廊下に出る。

その背中が、なんだか頼もしく見えた。

昨夜までは、ただの同僚。

部下として、信頼できる営業マン。

でも、今の私は――彼を男として見てしまっている。

背広越しの肩幅、スマートな歩き方、そして……あの熱い視線。

全部、思い出すたびに心臓が忙しい。

でも、私はチーフ。

それにこれは、仕事。

今は、私情なんて持ち込んじゃいけない。

「……佐伯チーフ?行きますよ?」

振り向いた彼の目が、昨日と同じ熱を湛えていた。

やっぱりダメだ。

今朝からずっと、仕事に集中できそうにない――。

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