欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~
飲み会がお開きになった頃、ふと時計を見て私は顔をしかめた。

——しまった。終電、逃してる。

「タクシー……?」

スマホで検索しながら、財布の中身を確認する。

──ない。こんな時に限って。

「どうした? 美桜。」

気づけば、蓮が隣に立っていた。

「あ、ううん。……いや、ちょっと。終電、逃しちゃって。」

気まずそうに笑った私に、蓮は眉を寄せた。

「タクシー拾う?」

「……持ち合わせなくて。」

言った瞬間、また“ドジだな”って笑われるかと思った。

でも——

「仕方ないさ。」

あっさり返ってきたその言葉に、胸がきゅっとなった。

「俺の家、近いから。寄っていく?」

優しい声。あの頃と同じ、いや、それ以上に優しかった。

一瞬迷ったけれど、他に選択肢もない。

「……うん」

気づけば私は、小さく頷いていた。
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