私の中にあるモノ
人間の繁栄は、長く続かなかった。

知恵を得て、進化した人間は、やがてその知恵を、互いに争う為に使うようになった。

世界各地で、たくさんの国で、戦争が巻き起こった。

きっかけは、どれもささないなことだった。

人種の違い、宗教の違い…。

それから…限られた土地や、限られた資源を巡った争い…。

竜と違って、人間は、相手を殺すことでしか、互いに争うことでしか、問題を解決出来なかった。

終わらない戦争。何世代経てもなくならない確執。

その度に、増えていく犠牲…消費される命。

混沌に満ちた人類の歴史を、どうすれば変えられるか。

考えて、考えて…人間が導き出した結論。

それこそが、この竜人研究所が生まれた意味。

人間は最早、自分達の問題を、自分達で解決することは不可能だと判断した。

そこで人間達は、人類が大昔に滅ぼした種族…竜の叡智に縋ることにした。

竜の血を継いだ、人類の上位種を誕生させる。

そうすることで、新たな人類となった竜人が、人間を正しく導いてくれるのではないか。

荒廃した人間の生態系を、竜人が正してくれるのではないか…。

人間は人間を統治出来ない。だから、その役目を竜人に託す。

…その為に、竜人を生み出すことにした。

その為に、この研究所が作られた。

その為に、私がこの世に生まれた。

私が、人の世界を正しく導く存在…。

…とても、そんな風には思えない。

それでも事実として、私はこの世界に存在していた。

何を果たす為なのか、自覚出来ていなくても。

…資料の最後のページに、過去の私が書いた、今の私へのメッセージが、短く綴られていた。

記憶を失う前の私から、記憶を失った今の私へ。

大したことは書いていなかった。

「記憶を失ったことは残念だけれど、そこにはきっと、必ず意味がある」

「だからそれだけは、絶対に忘れないで」と…。

…。

…多分、過去の私は凄く大事なことを、今の私に伝えようとしたのだろう。

それだけは伝わってくる。

だけど…その大事なことでさえ、私は覚えていない。

そんな自分が、酷く情けなく…頼りなかった。

…やっぱり…私が人間を導く竜人だなんて、とてもそんな器には思えない。
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