私の中にあるモノ
「…」

資料を読み終えた私は、黙って顔を上げた。

「どう?何か思い出した?」

山口教授が、私にそう聞いてきた。

…しかし…。

「…ううん、何も」

「そうかー…。…まぁそうだよなー。前回も、前々回もそうだったし…」

「…」

そう。

「この…記憶をなくすの、って」

「ん?」

「私みたいな竜人には、よくあることなの?他の成功検体も…」

「いやぁ。俺も100人以上、竜人を造ってきたけど。君みたいな記憶喪失竜人は初めてだよ」

「…」

記憶喪失竜人…。…本当、その通りね。

つまり、他の竜人達は、私みたいに記憶をなくしたりしていないのね。

「じゃあ…私は失敗作なのね?」

「え、なんで?」

なんでって…。

「こうして…何度も記憶をなくしてしまうから」

「記憶をなくすから失敗作?…それは違うなぁ」

…え?

「竜の生態については、まだまだ分からないことだらけなんだ。確かに君の記憶喪失は、これまでの竜人研究では見られなかった。でも、それは君が失敗作だからじゃない」

「…」

「もしかしたら、他の成功検体の方が失敗で、君の方が『正常な竜人』なのかもしれない。そういう可能性もあるだろ?」

「…どういうこと?」

「竜という種族は、何らかの条件下において、定期的に記憶をリセットする機能があったのかもしれない。…という仮説も立てられるじゃないか、ってことだよ」

「…」

それは…。

…ちょっと苦しい言い訳なんじゃない?

「そんな機能…。いくら竜でも、さすがにないと思うけど…」

一体何の為に備わってるの、その機能は。

実用性がまったく見られないよ。

「そうかなー?…竜は未知の存在だから、あらゆる可能性を考えるべきじゃない?」

「もしそうなら、私の他にも記憶喪失の竜人がいなきゃおかしいでしょ」

「君が最初の一人、である可能性も否めないよね?」

「…そうだけど…」

ああ言えばこう言う。

研究者って、こういうものなの?

それでも、私を励まそうとでもしているのだろうか。

「そもそもね、皆宮。君は自分を失敗作だと言うけど、無事に生まれてきてる時点で、君は充分成功検体だよ」

「それは…」

「君達竜人は、大半が生まれる前に崩壊しているし。仮に生まれてきたとしても、君みたいに五体満足で…いや、ツノも含めて六体満足で生まれてくる竜人は、それだけで充分な研究成果だ」

…ツノって、体のうちに入るの?

「生まれてきても足がなかったり、手がなかったり、ツノが片方しかなかったり、顔のパーツが足りなかったり…」

「…」

「何なら、腕が3本くらい生えてたり、足だけ4本も生えてる個体が生まれてきたこともある。…それでも、生存しているだけで御の字だよ」

「…」

「生まれる前に崩壊されちゃ、研究もろくに進まないからねー」

「…そう」

生きてるだけで充分、ね。

例え、何度も記憶を失ったとしても。

生まれてくることも出来ず、あの青いカプセルの中で崩壊した、数多くの竜人の命があったことを思うと。

それでも、私は幸運だったと思うべきなのかもしれない。
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