私の中にあるモノ
その訓練の為に連れて行かれたのは、さながら手術室のような部屋だった。

無機質なコンクリートの壁と床。そして、部屋の真ん中に寝台。

それは寝台と言うより、手術台だった。

…本当に、手術室みたいだ。

ここで…訓練…?

首を傾げていると、そこに。

「こんにちは。皆宮さん」

「あ…。篠森、さん」

昨日、私に親切にしてくれた研究員の篠森さんが、その部屋で待っていた。

「どう?昨日から…記憶は少しでも戻った?」

「…いや…。それは…どうかな」

正直、全然思い出せてない。

記憶喪失のままだ。

「そう…。まぁ、仕方ないわよね…」

「…」

「でも…あなたの記憶喪失について、山口教授が調べ直してくださるそうだから。しばらくしたら、何か分かるかもしれないわ」

「…そう」

…それなら良いけど。

今更調べて…何か分かるのだろうか?

分かったところで…私の記憶が戻る訳では…。

「…っと、今日は訓練の為に来たのよね」

「あ、うん…」

「じゃ、早速始めましょう。上着を脱いで、そこに横になって」

篠森さんは、手術台の上に横たわるように促した。

…ここに寝るの?

何だか…あまり、良い気分ではない。

それでも、これが「訓練」だと言うのなら…。やらない訳にはいかなかった。

私は制服の黒いジャケットを脱ぎ、その手術台みたいな硬い寝台の上に寝そべった。

すると、篠森さんが近寄ってきて。

「じゃ、留めるわね」

何食わぬ顔で、私の両手首に、ぱちん、と手枷を嵌めた。

…え?

驚いている間に、篠森さんは更に、私の足首にも、同じような重厚な足枷をぱちん、ぱちんと嵌めた。

あっという間に、私は四肢を拘束されてしまった。

しかもご丁寧に、首や腰周りにまで、素早く枷を嵌められてしまった。

これで私は、何があっても動けない。

どころか、僅かに身動きすら出来なくなってしまったのだ。

「な、何…?」

これは何なの?…これが訓練?

驚いて、横たわった態勢のまま篠森さんを見上げると。

彼女は、私が驚いていることに驚いていた。

「え…?あ、そうか。皆宮さん、記憶をなくしてるから…」

「一体、何が始まるの…?」

「大丈夫よ、すぐに慣れるから」

慣れる?

拘束されることに慣れるなんて、とても出来るように思えない。

それとも、記憶を失う前の私は…この「訓練」さえも、当たり前のことだと受け入れていたの?

「それじゃ、始めるわね」

篠森さんは、それ以上私に説明してくれなかった。

代わりに、彼女は手元のスイッチをオンにした。

途端に、手術台の上に設置された照明…無影灯…が点灯された。

その眩しさに、目を細める余裕もなく。

「うぐっ…」

私の身体に、太い針がブツッ、と突き刺された。
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