私の中にあるモノ
…だけど。

「逃げたい」と思って、そう簡単に逃げられるものだろうか?

「…ここは湖に囲まれてるんでしょう。どうやって逃げるの?」

山口教授は、竜人研究所を周囲から隠す為に、湖のど真ん中に施設を建てたのだと言っていた。

馬鹿な私は、その説明を鵜呑みにしていたけど。

でも、今なら分かる。

竜人研究所を、湖の真ん中に建てたのは、確かに周囲の目から隠す為でもあるのだろう。

だけど…こんな不便な立地に建設したのは、私達の逃走を防ぐ為でもあったのだ。

とてもじゃないけど、泳いで逃げ切れる距離じゃないし…。

「大丈夫だ。それについては考えてある」

「…どうするの?」

「この施設は湖の孤島だけど、完全に外部と遮断されてる訳じゃない。半月に一度、定期的に、物資搬入の為のヘリコプターが来るんだ」

「…!」

…まさか。

武藤くんの言わんとしていることを察して、私は愕然とした。

「まさか…そのヘリコプターを奪い取るつもり?」

「…あぁ。そのつもりだ」

…やっぱり…。

武藤くんも芦田さんも、冗談のつもりではなさそうだ。

…そうだよね。

ここまで覚悟を決めているなら…ヘリをジャックすることくらい、何でもない。

「ヘリが来るのは深夜だ。その時間まで中庭に隠れて、そしてヘリが来たら…」

闇夜に紛れて、ヘリポートに侵入し。

そこからヘリコプターを奪って、島から出ていく…。

…そういうことね。

実に単純明快で、シンプルな手段だ。

でも…そのくらい単純な方が良いのかもしれない。

小難しい計画もない。今回の場合、その方がむしろ成功率は高くなるだろう。

竜人研究所のモルモット達…。…竜人の成功検体達が逃げ出す、なんて。

研究所の職員達は、そんなことは考えてもみないはずだ。

「脱走するのは、あなた達3人だけ…?」

「いや。計画に参加するのは、俺達3人の他に、あと3人いる。計6人だな」

あと3人…。計6人での脱走。

きっとその3人も、シンクロ率が限界値を下回った…寿命の近づいた竜人なのだろう。

立葉ムダナちゃんや…それに、近江ムライカのように…。

「そして、皆宮さん…。あなたも協力してくれれば7人になるわ」

「…芦田さん…」

「お願い。私達と一緒に来て。一緒に…こんな牢獄から、逃げましょう」

「…」

牢獄…。

…本当だね。

私達は、牢獄の中で生まれてしまったんだ。

そこが牢獄だと、気づかないままに…。

…こんな大事な話、少し考える時間が欲しかったが…。

「その話は…いつまでに決めれば良いの?」

「今だ」

「え?」

せめて一晩でも、考える時間をくれると思ったが。

「今しかない。…決行は、今夜なんだ」

武藤くんは、はっきりとそう断言した。
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