私の中にあるモノ
近江さんは、病室のベッドに横たわっていた。

病室とはいえ、4階にある私の居室とほとんど変わらず、殺風景な部屋だった。

死にゆく竜人に、特別な手当など必要ないのだろう。

点滴も、投薬も、処置も、せめて苦痛を和らげる為の緩和医療も、何も無い。

回復の見込みもないから、リハビリさえない。

ただベッドに横たわって、真っ白の天井を見上げながら、最期の瞬間を待っているだけだ。

そのベッドの上に、近江さんはいた。

数日前に会った時は、酷く憔悴した様子だった。

それでも、自分の足で立って、訓練も受けていたのに。

今日は…今日の近江さんは。

数日前の姿が、まるで嘘のように…枯れ果てていた。

他に、どんな言葉で説明したら良いのか分からない。

手も足も枯れ枝のように痩せ細って、頬は痩け、目は落ち窪み、唇はカサカサで。

白い病院着を着せられた彼女は、最早死体と変わらない姿に見えた。

髪の毛はごっそりと抜け、枕に大量の抜け毛が付着していた。

まるで、彼女に残された砂時計の最後の砂が、さらさらと落ちていくかのように…。

干からびた、ミイラみたいなその姿。

それが、私や此代達…竜人の最期の姿だった。

私もいずれは、こうなるのか。

誰に看取られることもなく…。訪れる死の恐怖に怯えることしか出来ない…。

「…近江さん」

私は、彼女のベッドの傍らに立ち。

辛そうな顔で目を閉じる彼女に、そっと声をかけた。

…すると。

「…」

私の声が聞こえたのか、それとも気配を感じたのか。

近江さんは、ゆっくりとまぶたを開いた。

良かった、まだ生きていた、と思った。

それでも、彼女の目は濁っていて、とても虚ろだった。

彼女の死が、ますます間近に迫っている何よりの証だった。

「近江さん…」

なんと声をかけて良いのか分からなかった。

「元気?」とも、「大丈夫?」とも言えない。

元気なはずないし、大丈夫な訳が無いのも分かりきっているからである。

「近江さん」

だから私は、代わりに、馬鹿みたいに彼女の名前を繰り返すしか無かった。

「…。…何よ…。…皆宮…」

近江さんは掠れた声で、私の名前を呟いた。

たったそれだけのことでも、今の彼女にはとても辛そうだった。

「なんでここにいるの…。あんた…。…訓練は…?」

「…」

訓練なんて、してる場合じゃないでしょう。

近江さんが…こんな風になっているのに。
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