私の中にあるモノ
死んだ…。…死んだ?

近江さんが…。

「なんで…だって…。近江さんは、何処にも…」

近江さんは何処にもいないなに、どうしてそんなことが分かるの。

もし…もし、死んでしまったのだとしても。

ベッドの上に、彼女の遺体が残る、はずじゃ。

「竜人の死は、すなわち、肉体の崩壊だ。寿命を迎えると朽ち果てて、骨も残さず、霧のように消えてしまうんだよ」

「…」

「いやぁ、上手く出来てるよね。竜の身体って。何も残さずに蒸発するなんて…。…出来れば、死体を解剖して、色々と調べたいところなんだけど…。それさえさせてくれない。まったく意地悪だよ」

山口は、何故か微笑みながらそう言った。

…あなたは。あなたという人は。

またしても…そんなこと、得意げに…!

「死にかけの身体を解剖しても良いんだよ?…でも、それをしないのはせめてもの恩情だ。これでも俺は、竜の血を尊重してるんだから」

「…そんなことを平気な顔して言うのが、あなたの言う『尊重』なの?」

「あれ?皆宮、また怒ってるな…。どうしてだ?」

どうして、だって?

「記憶を失ってるからか?…近江はずっと、君に突っかかってたじゃないか。君が生まれるまでは、彼女が一番のシンクロ率の高さを誇っていたからね。まぁ皆宮が生まれた後は、常に二番手だったけど」

「…」

「二番手とはいえ、近江も全盛期はシンクロ率が凄く高かったからさ。よく研究に貢献してくれたよ。彼女は努力家だったしね」

…そうね。私よりもずっと。

近江さんは私みたいに、記憶を失ったりもしなかったものね。

私よりも…ずっと優秀で。

そして、生き残るべき竜人だった。

「本当に、よくやってくれた。上出来だよ、近江。お疲れ様」

山口は空っぽのベッドに向かって、朗らかにそう言った。

…本当は、山口を殴りつけてやりたかった。

どうしようもないほど…死ぬほど、山口が憎くて堪らなかった。

だけど、近江さんの誇りを傷つけることは出来ない。

だから、私は握り締めた拳を、振り下ろさないように必死に堪えなければならなかった。

そして。

「…さてと、それじゃそろそろ…。近江の代わりになる、新しい竜人を造らないとな」

山口は既に、死んでしまった近江に興味をなくしていた。

そして…近江に代わる、新たな竜人の成功検体を造り出す為に。

近江の病室を出て、自分の研究室に戻ってしまった。
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