私の中にあるモノ
「…」

私は、しばしその場に立ち尽くしていた。

誰もいない…空っぽのベッドを見つめて。

「…近江さんの、嘘つき」

私は、空っぽのベッドに向かって話しかけた。

そこにはもう…誰もいないというのに。

「…また明日ね、って言ったじゃない…」

あの時、君はもう自分の死を分かっていたの?

自分に明日なんて来ない、って分かってたの?

近江さんは一人ぼっちで、このベッドの上で最期を迎えたんだよね。

最期は乱暴どんな気持ちだった?

突然消えてしまったの?…痛かった?

地獄の痛みに苛まれながら、苦しみ抜いて死んだの?

…怖かった?

…きっと怖かったよね。…凄く。

近江さんは、あんなに死ぬのを怖がってたんだもの。

怖かったはずだ…。最期に一人ぼっちで、寂しかったはずだ。

それとも…そんな弱々しい姿を誰にも見せることなく死ねたと、喜んでる?

せめて…最期の瞬間くらい、傍にいてあげたかった。

例え嘘でも、気休めに過ぎなくても。

手を握って、「大丈夫だよ」って、「一人じゃないよ」って、言ってあげたかった。

少しでも…その恐怖を和らげてあげたかった…。

「苦しかったよね…。凄く、怖かったよね…。頑張ったね、近江さん…」

あなたは本当に…本当に、よく頑張った。

立派だったよ。最期まで。

誇り高い竜人に相応しい…そんな終わりだった。

「…近江さん…。近江、ムライカ…」

私は彼女の姿を思い出し、そっと手を合わせた。

どうかお願い、祖竜様。

あなたの遠い娘である近江さんを、その温かな御手で迎えて上げてください。

あんなに死ぬことを怖がっていた彼女が、二度と何も恐れないで済むように、優しく抱き締めてあげてください。

…近江さん。




「…さようなら」


< 63 / 105 >

この作品をシェア

pagetop