私の中にあるモノ
…6階?

当時の私にとって、研究所は、自分の住む世界そのものだった。 

ここは家であり、学校であり、世界のすべてであり。

そして、唯一の居場所だった。

竜の血を混ぜて生まれた子供は、この研究所以外、いかなる場所でも生きられない。

でも、私はそんなことさえ、まだ知らなかった。

何も知らない…幼い、竜の子供だった。

ある意味で、私のもっとも幸福な時期だったのかもしれない。

「でも…6階は、入っちゃダメだって…きょーじゅさんが言ってたよ」

私は、舌足らずに、そして馬鹿正直にそう答えた。

「そうだけど…。…でも、見てみたくないか?」

「…それは…」

私だけではない。

他の子達も、その魅惑的な誘いに、幼い好奇心をくすぐられていた。

…見ちゃいけないと言われると、余計に見てみたくなる。

入っちゃいけないと言われると、余計に入ってみたくなる。

好奇心には勝てない。…いくら竜の血が流れていても。

私達は、みんな子供だった。

「…だけど、6階には鍵がかかってるんじゃないの?」

他の子が、当然の疑問を口にした。

そうだよ。

入っちゃいけないんだから、当然鍵だってかかってるはずだ。

しかし、提案したその子は、得意げに言った。

「今は大丈夫だよ。鍵が壊れてるんだって」

「え?」

「きょーじゅさん達が、話してるのを聞いたんだ。6階の、せーたいにんしょー…?の鍵が壊れてるから、明日すぐに修理の手配をしましょう、って」

「…」

せーたいにんしょー…。…生体認証。

それが何なのか、6歳の私には分からなかったけれど。

つまり、鍵が壊れているんだってことは分かった。

今なら、鍵無しで6階に入れるんだってことも。

「明日になったら、修理の人が鍵を直しちゃう。だから、チャンスは今日しかないんだよ」

明日はもう無理。今日しかチャンスがない。

…そう言われると、ますます好奇心に駆られるというものだ。

「でも…でも、怒られないかな…?」

もしも大人達に見つかったら、不味いことになるんじゃないか、と心配したが。

「見つからなければ大丈夫だよ。…みなみやは怖がりだなぁ」

私を誘ったその子は、笑いながらそう言った。
 
「怖がり」と言われて、幼いながらに、ちょっとムッとしてしまった私。

「怖くなんかない」
 
「じゃあ、一緒に行こうよ」

「…良いよ」

本当を言えば、少し怖かった。

大人達に怒られることではなく、知らない場所に行くことが。

見てはいけないものを見てしまったら、自分が自分ではなくなってしまうかもしれない。

…だけど、そんな不安を押し殺して。

私は仲間達と共に、禁断の果実を口にすることにしたのだ。
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