私の中にあるモノ
深夜。

私と仲間達は、こっそりと部屋を抜け出した。

生まれてからずっと、この研究所で暮らしてきた私だが。

深夜に部屋を抜け出し、こうして研究所の廊下を歩くのは、初めての経験だ。

昼間の明るい研究所しか知らない私にとって、真っ暗の廊下も、夜の帳が下りた窓の向こうも。

ほんのちょっとした物音や、何なら自分の足音の一つでさえ、いちいち恐怖心を駆り立てた。

きっと、一緒にいる仲間達もそうだっただろう。

だけど、誰も「やめよう」、「帰ろう」とは言わなかった。

それを真っ先に口にして、臆病者だと思われるのが嫌だった。

それに、みんな。

恐怖心と共に、少なからぬ好奇心に駆られていた。

見てみたい。自分の目で。

進みたい。自分の足で。

確かめてみたいのだ。…未知の世界を。自分の手で。

だから、私達は進んだ。

大人に見つからないよう、足音をひそめて、こっそり、ゆっくりと。

今見つかったら、もう言い訳も出来ないよね。

いつもの何倍もの時間をかけて、階段まで辿り着き。

普段は下に降りる階段を、今夜は上に登った。

5階を通り抜けて、そして禁断の6階へ。

心臓がはち切れそうなほど、私は緊張していた。

私だけじゃなく、今この場にいる誰もが、似たような状態だっただろう。

高鳴る鼓動を抑えつつ、ようやく辿り着いた。

「…」

初めて訪れた、6階のフロア。

私達は、暗闇の中、周囲をきょろきょろと見渡した。

竜人研究所は、1〜5階にかけて、どのフロアも似たような造りになっている。

フロア全体に通じる長い廊下があって、その廊下を挟んで、両側にいくつもの部屋が並んでいる。

だけど、この6階は、下のフロアとはまるで構造が違っていた。

6階にあるのは、一つの部屋だけだった。

階段を上って、踊り場の向こうに、たった一つだけ、部屋の扉が待ち構えていた。

長い廊下も、窓も、他の部屋もない。

ただ一つの部屋が、そこにあるだけ。

…何だか、拍子抜けだ。

たったこれだけの場所なの?

「ここ…?」

「うん…。…多分…」

これには、仲間達も動揺を隠せなかった。

…どうしよう。

どうしたら良いんだろう。

扉は閉じられ、その横に小さなモニターが埋め込まれていた。

これが、生体認証ロック。

このモニターに手のひらをかざすことで、ロックが外れ、扉が開く仕組みのようだ。

…まぁ、今は壊れてるらしいけど。

だから、ロックを開ける必要はない。

普通の扉と同じだ。

ドアノブを掴み、回して、引けば良い。

それだけで、この禁断の扉は開く。

簡単なことだ。とても…簡単なこと。

…それなのに。

「…」

私は、言いようもない恐怖に襲われていた。
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