聖女の愛した花園
私と母は姫宮の分家を出て、二人だけで暮らし始めた。それ以降母は落ち着いていて穏やかだった。母は私に対して優しかった。ずっとずっと優しかった。
だけど、もし私が本当は男だと気づいてしまったら。本物の渚はもうこの世にはいないのだと気づいてしまったら――母はどうなるかわからない。だから私は、このまま母の望むように女として生きるしかなかった。
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母の望みで聖リリス女学院中等部に通い始めた。女性らしい振る舞いには慣れたとはいえ、思春期を迎えてどうしても体の変化と向き合わなければならなくなる。生粋のお嬢様たちが集うこの花園で自分は女としてやっていけるのか。
「まあビクビクしていても仕方ないか」
私は弓道部に入部した。他の運動部程男女の体格差が大きく出ることはないと思ったからだ。それに和服は体型を誤魔化しやすい。幸いにして喉仏がそんなに目立たない方だったので声も気をつけていれば大丈夫そうだ。
同じクラスになった笠吹蘭華とは仲良くなった。彼女はあの笠吹メディカルグループの令嬢で正に気高いお嬢様といった感じだが、話してみると案外話しやすかった。
ハーフの彼女は他の生徒より背が高く、隣に並んでも違和感がないのが有難い。白百合寮の白雪さゆりとは何かありそうな雰囲気だったが、特に言及はしなかった。自分のことをあまり深く知られたくないから、他人と付き合う時も踏み込みすぎないことを心がけた。